2人の個人が互いにお金を貸しあっているような状況では、相互の借金を相殺することができます。しかし現実にはもっと複雑なケースが多いため、民法では相殺ができるケースを定義しています。早速確認していきましょう。
相殺の要件(相殺適状)
①同種の債権が対立していること(金銭債権同士など)
②自働債権の弁済期が到来していること
③相殺禁止の特約が存在しないこと
④法律により相殺が禁止されていないこと
民法上の相殺事例(自働債権・受動債権)
Aの債権の種類 | 相殺の援用可否 | |
自働債権(債権者Aの視点) | 受働債権(債務者Bの視点) | |
【1】弁済期到来前の債権 | × 期日前の相手に返済を迫る →相手の利益を害する |
○ 自主的に、期日前の返済を行う →相手の利益を害さない |
【2】(同時履行の)抗弁権*1 が 付着した債権 |
× 自分は商品を渡さず、相手に支払いを迫る→相手の利益を阻害 |
○ 自分から抗弁権を 放棄する分にはOK |
【3】不法行為債権 (=損害賠償請求権) |
○ 被害者からの相殺はOK |
× 加害者,強者であるため 事故の慰謝料等,直ちに支払いが必要なケースがあるため |
【4】差押禁止債権 ・年金収入等,差押えると 生活できなくなるもの |
○ 社会的弱者からの相殺はOK |
× 年金等を相殺されると,債権者Aは収入がなくなってしまうから |
【5】時効消滅した債権 ・昔お金を借りた相手Bにお金を貸した時等。 ・A→B貸付はどうなるか |
○ ※時効前から相殺適状の場合、Aは相殺したつもりでいたとみなされる | ○当然に可能 (B視点では、返さなくて良い債権を相殺に使うことになる) |
【6】差押えられた債権*2 ・Aの債権(Bへの貸付)を,Cに差押えられたとき ・B→A貸付はどうなるか? |
× Aには権利なし |
○ ※差押え前から相殺適状の場合、B→Aへの貸付は、差押えを想定しえなかったため、利益を保護される |
*1 抗弁権:商品引き渡しと同時でなければ、代金を支払わないとする権利。
今回のケース…Bは代金債務を負っているが、債権である商品を受け取っていない状態
*2 差押えられた債権:差押えが先の場合、相殺は不可
→Aは、Bからお金が返ってこないことを覚悟の上で、Bにお金を貸したとみなされる